それは満開の桜の中での出会いでした。―
初恋桜 <青空と向日葵の絵>
『はぁ・・・入学早々先生の手伝いやらされるなんて、あんまりだわ。』
サクラは一人、とぼとぼと誰も居ない廊下を歩いていた。
今日は木の葉中学校の入学式。
サクラは小学生時代、かなりの秀才だったことが気に入られてしまったのか、HR終了後、すぐに担任の紅先生に呼び止められて頼まれ事をされてしまった。
「これ、旧校舎の美術室に運んどいてね」
緊張している時に、綺麗な笑顔で頼まれてしまったのは断るのが難しい。
しぶしぶ頷くしかなかった。
ふと、廊下の窓から外のほうを見ると、上級生らしき人達が楽しそうにサッカーをしているのが見えた。
「・・・そういえば、ナルトもサッカー好きだったっけ。」
金髪の髪を靡かせて、汗でびっしょりになっても元気に走ってボールを追っかけていた幼馴染の顔が浮かんだ。
「あのこ、大丈夫かな・・・・。」
最後に会ったのはたしか小学校の卒業式。大体1ヶ月前のこと。
それ以来、ずっと会えていない。
『入学式にも出られないなんて、きっと、また病状が悪化したのね・・・。』
涙が零れ落ちそうになった瞳を慌てて拭った。
病気なんて、夏にする手術で治るはずだ。
そしたら、また毎日会えるようになるのだ。
『帰ったら、お見舞いに行ってみよう。なにがいいかしら、甘いものだったら喜ぶわよね・・・・』
以前、クッキーを作ってあげたときに物凄く喜んでいた顔を思い出した。
くすりと笑って、美術室へと走った。
美術室へ行くと、プリントや行事の用具が沢山置いてあって、とても絵が描けるような教室ではなかった。
とりあえず頼まれたプリントも適当にその辺へ置いておく。
これで、任務完了。
さぁ帰ろう、と思ったサクラの瞳に、奥のほうでなにやらゴソゴソやっている黒い影が映った。
瞬間、体が硬直する。
この田舎の町は山に囲まれているから、動物が人里へ下りて来るのはよくあることだった。
可愛い子リスやシカなんかなら全然良いのだが、もちろん熊だって出てくることがある。
奥の黒い影はまだゴソゴソと動いていて、顔は見えないが、放課後に、こんな絵のかけない美術室にまさか人が来るはずがない。
『落ち着かないと・・・・。幸い、まだ気付かれてないんだし、ゆっくり、出て行って先生を呼びにいって・・・』
頭で分かっていても、体が動かないというのはこのことなのか。
サクラは一歩もその場から動けずにいた。
『っ恐い、恐い!・・・ど、どうしよう!だ、誰か・・・!』
次の瞬間、気配に気付いたのかむくりと黒い影が身を起こした。
「っい、いやあああああああ!!」
叫んで、おもいっきり影を殴りつけた。
「がはっ!」
思いきり腹を殴られて盛大に倒れこんだのは。
「・・・・え?」
おそるおそる瞼を開けると・・・
学ランを着た男子生徒が一人倒れていた。
「・・・・あの、本当にごめんなさい・・・。」
「別にいいよ。熊だと思ったんでしょ?普通気付くと思うけど、平気だし、いいよ。」
『責めてるのか許すのかハッキリしてほしいわ・・・。』
サクラが熊と間違えて思い切り殴ったのは、同じクラスになったサイという男子生徒だった。
痛そうにお腹をさすっているのをみると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「・・・馬鹿みたい。サイのいうとおり、普通気がつくのに。こんなことして、本当に・・・」
「平気だって。それよりすごいねぇ。キミの力。怪力ババアだね。」
「なによ、それ。」
ははっと笑うサイを思いきり睨みつけた。
「大体、あんたがあんな奥のほうでゴソゴソやってるから勘違いするのよ。」
「だって、あそこに絵の具が揃ってるって聞いたから・・・。」
「・・・絵、描くの?」
「うん。僕の夢は画家になることだから。」
「・・ふぅん。」
さっきまでサイの発言に腹が立っていたサクラだが、将来の夢をもっているサイがすごく大人に見えて、怒りも吹き飛んだ。
「サクラは、夢とかあるの?」
「え?私は・・・・。」
ここで『無い』というのはなんだか嫌で、必死に悩んでいるサクラの頭に、さっきの幼馴染の顔が浮かんだ。
苦しいのを誤魔化して、いつも笑顔を絶やさないナルト・・・。
「・・・私は、医者になりたい。友達がね、すごく重い病気にずっとかかっていてね、この夏手術するんだけど・・・。でも、あのこみたいな苦しんでいる人を、救ってあげたいって、思うから・・・。」
思いつきで口にしたのに、その夢はサクラの胸に深く響いて、じわりと広がっていった。
ちらりとサイを見ると、少し驚いたように目を見開いていた。
「・・僕も、友達が重い病気にかかってて・・・、そして彼も夏のはじめに手術なんだけど・・・・。その、僕も彼にね、絵描いてあげたら喜んでもらえて、それが嬉しくて、病気で苦しんでる人達が喜ぶような絵がかける絵描きになりたいって思って・・・。」
「じゃあ、私たち2人共、友達の影響なのね。」
ふふっと微笑むと、サイも微笑み返した。
打ち解けて数分後、サクラはサイの絵の具探しに付き合っていた。
プリントやなんやらで埋もれた教室の中を捜すのは難しかったが、サクラはなんとしても見つけてあげたいと意気込んでいた。
プリントの山をどさっとどかすと、少し潰れたダンボールに大きな字で『油絵の具』と書いてある。
急いで開けると、しっかり絵の具のセットが揃っていた。
「サイーッ!絵の具、この箱に沢山入ってるわよっ!」
サイはすぐにやってきて箱の中を覗くと、嬉しそうにサクラに微笑んだ。
途端にとくん・・と心臓が鳴る。
ふわりと春の風が窓から入ってきて、サクラの桃色の髪がそよいだ。
「あ。」
「?どうしたのよ。」
「今気付いたけど、サクラの髪綺麗だね。暖かい春の色だ。」
「・・えっ?」
胸が苦しくなった。顔が真っ赤に染まっていくのがわかる。
『・・・ちょっと、待ってよ私!そんな、こんな、今日初めて会った人に・・・・!』
とくん、とくんと音が止まない。
『恋なんて・・・そんな、そんな・・・・!』
「惜しかったね。髪と顔があってない。もっと美人に産んでもらえたら良かったのにね。」
「しゃーーーーんなろおおおおおっ!!」
サイの顔面にサクラの拳が炸裂した。
「へ、へぇ・・・・そんなことがあったんだ。」
「本当、腹立つわぁ〜・・・・乙女のトキメキを返してって感じ!!」
あのあとすぐにナルトの部屋へお見舞いに来たサクラは、久しぶりの幼馴染の顔をみるなり爆発して一気に今日の出来事をぶちまけて怒り狂っていた。
そんなサクラの顔が、長い付き合いだから分かるのか、嬉しそうに見えて、ナルトはくすっと微笑んだ。
「あ!アンタなに笑ってるのよ!せっかくのお団子、全部取り上げるわよ!?」
「え!?それは勘弁だってばよぉサクラちゃーーん!!」
美しい桃色の髪の毛が風に吹かれてそよいでいる。
春の午後はとても暖かだった。
『・・あれ?そういえば、さっきの話のサイって・・・・・。』
サクラとサイの「友達」が、同一人物であることに二人が気付くのはもう少しあとの話。
※サイサク+ナルト。サスケは全く登場しませんでしたがすごく楽しく書けて良かったです。