〜♪♪〜♪〜

ケータイの着信音が鳴り、サスケはハッと気がついた。
もうどれほどそこに居ただろうか。
気がつくと外はもう真っ暗で月が出ている。

あれからずっと自分はこの絵に・・・。

考えると無性に恥ずかしくなった。
絵は、月明かりに照らされてさらに美しさを増している。
だが、ここでまた引き込まれたらやばい。
理性を取り戻し、再び布を被せて元通りに直してからケータイを開くと、母からの着信だった。
時間も、もう20時を過ぎている。
瞬間、真っ青になり、全速力で家に帰った。


W  桃色少女


昼休みのこと。
「サイ、ちょっと話があるんだけど。」
本から目を離して見れば、クラスメイトのサクラが仁王立ちして自分を見下ろしていた。
「どうしたの、サクr」
「ちょっと、来てくれるかしら?」
そう言って引きつった作り笑顔を向けてきたサクラに、サイは
何か自分は彼女の気に障るような事をしてしまったのだろうかと思ったが、とりあえず頷き、言われたとおり付いていく事にした。



たどり着いたのは屋上だった。
サクラの桃色の髪が風になびいて、まるで桜の花びらが舞っているような光景に少し見とれたが、そんなこと
考えている場合じゃない。
以前空気の読めない発言を彼女に向かって連呼してしまったとき、その体のどこにそんな力があるんだというくらいの力で思いっきり顔面を殴られてしまい、しばらく顔に大きな痣が残ったことがある。
とにかく、彼女を怒らせると半端じゃない。
「・・・で、どうしたっていうの?」
内心おどおどしながらも聞いてみると―

「・・・あんた、サスケ君と仲良いのね。」

「?」

言われた瞬間、思わず?マークが浮かんだ。

「ほら、さっきもなんか話してたじゃない。」

そういえばさっき昨日キバ君に貸したボールペンを何故かサスケ君に返してもらったんだっけ。
サスケは、なんかいつもと違って、少し焦ってる感じだったけど・・・。

とにかく怒られる内容ではなさそうなことに安心したが、同時にサイの胸にチクッと痛みが走る。
(なんだ・・・・?)
気になったが、とにかく今は彼女に答えるのが先だ。

「・・・たしかに話したけど、別に大したことじゃないよ。仲良いって言うけど、こないだちょっと資料はこぶの手伝ってもらっただけだし。第一、僕がサスケ君としゃべっちゃ駄目なんてことは無いでしょ?」

「・・・。」

クラスの女子の大半がサスケに憧れているのは知っている。
サクラが友達と一緒に騒いでいるのもみた。
だから、サクラはサスケとよく喋る(ように見える)自分に対して嫉妬してるんだろうか。

そう考えれば考えるほど、胸の痛みが酷くなっていく。
一体・・・





「そうよね・・・、ごめんなさい。いきなりこんな事で呼び出したりしちゃって。」

申し訳なさそうに笑いながらサクラが言った。

「えっ?」
てっきり、「もうサスケ君に近づかないで」とか訳のわからないことを要求されるのかと思っていたのに。


「もうそろそろチャイム鳴っちゃうし、戻りましょっ!」

何故かさっきより機嫌の良くなっているサクラに疑問をもちながらも、また後ろについていった。
胸の痛みは消えていた。。。








(今日も、居ないんだな。)
放課後、サスケはまた美術室に行った。
帰ってからも、授業中も、ずっとこの絵の少年のことで頭がいっぱいで苦しかった。
(本当・・・、これが初恋なんて、どうかしてる・・・。)
好きなものは好きだからしょうがないんだろうが、絵に描いてある人に、それも男になんて。
(・・・狂ってる。)
布をはがし、また魅入っていく自分が、本当馬鹿みたいだ。
少年の頬に少し触ってみる。
―あんたが本当に存在してくれたらいいのに・・・―
はぁ・・・と、溜息を付いた時、初めて美術室に入ったときの、サイから聞いた言葉を思い出した。


『モデルをやってくれた友達がね、描いてる途中に具合悪くしちゃって・・・』




・・・そうだ、たしかに彼はそう言った。
モデルをやってくれた友達・・・。
どんな奴なんだろう。
この絵と同じ容姿をもっているんだろうか。

もしそうなら・・・・

会って、話してみたい。
そして、できることなら・・・


この絵と同じ、この笑顔をみてみたい。




―そして、その願いが実現するのは、そう遠くない未来の話だった―


       ■■■■■■■


夏がそろそろ終わりに近づいていた。
散々騒がしかった蝉の鳴き声も止み、プール授業も終わって、木の葉の村にも秋が近付き始めている。
それでもまだ暑さは相変わらずで、サスケの通っている中学でも生徒達は夏服のままだ。


サスケは毎日のように、今日も放課後に美術室へ行っていた。
サイは最近進路のことで忙しいらしく、しばらく来れないらしい。
まだ自分達は中1だってのに、そんなに真剣になる奴もいるんだな・・・。
旧校舎の廊下を歩きながら、ぼーっと考えていた。

学年の上位にいるサスケだったが、正直進路について深く考えた事は無かった。
そういや、兄さん・・・クソ兄貴はもうこのぐらいで進路決めてたっけ。

サスケの兄、イタチは医師であり、最近までは自宅から都会の病院まで通っていたのだが、つい4日前くらいに一人暮らしをすると言って病院に近いマンションに引っ越してしまった。
それでも1ヶ月に何度かは戻ってくるらしく、サスケにはそれが非常に気に入らなかった。

サスケは兄が嫌いだった。
自分と容姿はそっくりなくせに、自分よりずっと何でもできてしまう兄。
幼いころは自慢の兄だったが、今は本当クソ兄貴でしかない。
感情が分かりにくく、自分より無口で、それでいてすぐに人をからかってくる。(イタチ本人は別にからかっているつもりは無い)
僻んでるとか、羨んでるとは認めたくなく、とにかくこの気持ちを表すならと考えたら「嫌い」しか浮かんでこなかったのだ。

ふぅ・・・と溜息をつく。
(ずっと都会にいて、帰ってこなきゃいいのに・・・。)

そんなことを考えているうちに、目的地を示す、例の古いプレートが見えてきた。
―もう何回ここにあの絵を見に来てることか。
この瞬間から布を捲るまでが一番ドキドキする。
実際サイに見つかったらかなりやばいことをし続けてる訳だから、そういう意味でも緊張するのだが。

・・・そういえば、サイの友達がモデルなんだと思い出したあの日。
あれ以来、サスケは学校中、その『友達』を探し回っていたのだがそれらしい人物は全く見つからなかった。
一番詳しいであろうサイにはもちろん聞けるはずもなし。
だが、会いたいという思いはさらに募るばかりだった。



いつも通り、少し歩調を速め、扉に向かう。

そしていつものようにガラガラと扉を開ける。

全ていつも通りのこと。



―しかしそのいつも通りなのも、ここまでだった。―





「!・・・サイッ?!」




















突然、聞き覚えの無い声が教室に響き渡った。

驚いたサスケが聞こえてきたほうを見るとそこには・・・・




鮮やかな向日葵と同じ髪色

青空のように透き通った瞳



全て、サスケが恋している絵の少年と同じものをもった少年が、大きく眼を見開いて、
まっすぐ、サスケを見つめていた。







まさか、そんな。
今までずっと、夢だった。
会いたくて会いたくて。
でも、一生懸命探してもまったく手掛かり無くて。
正直、諦めていたってのに。

なのに、やっと、やっと・・・・



「・・・あれ?人違い??」

黙って扉の前に突っ立っていると、少年がこっちに近づいてきた。
胸の鼓動が早くなる。
青い瞳がまっすぐこっちを見つめてきていた。
吸い込まれそうになる、透き通った、真っ青な瞳。
それが日の光に照らされて、キラキラと宝石のような美しさを放っているのだから、もう狂ってしまいそうになる。

「へへっ、いきなりでビックリしただろ?ごめんってばよ。」
少年がにっこりと微笑み、話し掛けてきた。

「・・・・っ!・・・・いや、大丈夫だ。」
嬉しさと緊張で頭が上手く回らない。
とにかく、今は落ち着かなくては。
あの青い目を見ないようにと下を向き、なんとかそう返答できた。
とにかく落ち着くまではこれで乗り越えるしかない。

そう思っていたのだが・・・

「あっ!駄目だってばよ!人と話すときは相手の目を見て話さなきゃ!!」
急に頬に冷たくて柔らかな何かが触れたと思ったら、少年がサスケの顔に両手を当て、ぐいっと前を向かせようとしてきていた。
瞬間、ドクンッと心臓が弾む。
思わずその手を掴み、思い切り振り払ってしまった。

―だが少年は特にそれを気にした様子も無く、

「なぁなぁお前、名前なんてーの?」

と、また質問してきた。

質問されるのは好きじゃないサスケだったが、相手によるんだろうか。
いまはすごく心地が良い気分だった。
(とはいっても、心穏やかなわけではなかったが。)

さっき目を見て話せと言われてしまったので仕方なく少年の顔を見ると、相変わらず笑顔でこちらを見つめてきている。
顔が熱い。
胸が苦しくてしょうがない。

でも、この場から逃げ出したくない。

(いつものように、いつものように・・・クラスの奴らと同じように・・・・・・)

コミュニケーションが酷く苦手な上にいつもの冷静さを失っているサスケは、とにかくこの『俺はアンタ(男)に恋してます』ということを悟られないようにしようと精一杯になっていた。


そして・・・・



「・・・人に名前を聞く時は、まずは自分から名乗るもんだ。このウスラトンカチ」



思わず口から飛び出たのは、心にも無い台詞。

言った瞬間、サスケの顔は真っ青になったが、後悔すでに遅し。



少年の顔は、さっきまでの笑顔ではなくなっていた。

・・・明らかに怒っている顔だ。



こっちを睨みつけ、大声で―




「ウスラトンカチって・・・・いきなり何なんだってばよー!!」







―嗚呼、グッバイ俺の初恋の日々。。。


※サスケらしく、サスケらしく、を考えていたらこうなりました(←