まだ日が沈むには早いせいか、二人の居る教室に暖かな日差しが差し込んでいた。
普通ならこんなほのぼのした陽気の中なら、心も穏やかになるのだろう、・・・が。
この二人の間には、ピリピリとした険悪なムードが流れていたのであった。
X 疑問
(なんでこんなことになってしまったんだろう・・・)
サスケは心の中で嘆いたが、全部自分が招いた事である。
やっと出会えたことで浮かれてしまい、つい照れ隠しで心にも無い暴言を吐いてしまった。
そしてその結果、まだ名前も知れてない初恋の少年を思いっきり怒らせてしまったのだ。
(こういう場合は・・・・やっぱり謝るべきなんだよな・・・)
しかし謝るなんて13年間生きてきた中で指で数えられるくらいしか(それもどれも幼いころの話だ)したことのないサスケには、これまた何故か無性に恥ずかしくて難しいのだった。
そんな感じで、ずっと悩んでいると・・・
「・・・・ま、いいや。むかつくけど、いつまでもこのままなのも嫌だしなっ」
いつまでも何も喋ろうとしないサスケを、反省してるんだろうと勘違いしたのか、少年のほうから話し掛けてきてくれた。
場の空気もいっきに明るくなり、サスケは少しほっとした。
「あー・・・俺、うずまきナルト!よろしくなっ!」
にこっと、再び笑顔を向けてきた少年に、またもやクラッとなったが、なんとか踏ん張り、耐える事に成功した。
さっきの失敗のおかげで少し冷静さを取り戻していたサスケは、もう二度とやるまいと慎重に慎重に・・
「・・・うちはサスケ。」
とだけ言って返した。
「サスケかぁ・・・じゃあ普通に、呼び捨てで呼んでいいってば?」
「別に・・・好きにしていい。」
「そっか、じゃあ俺のことも好きに呼んでいい・・・あ!でもさっきのウスラ・・・」
「・・・ウスラトンカチ?」
「そうそうそれー!それはぜってー駄目だから!!」
「・・・分かった。・・・なら俺も呼び捨てにする。」
「おう!」
ひとまずさっきの発言は許されたようで、サスケはかなり安心した。
―うずまきナルトか・・・、ラーメンの具みたいな名前だな。親が好きなんだろうか?―
なんて考えていると、またナルトのほうから話し掛けてきた。
「なぁなぁサスケ、お前、サイって友達?っつーか知ってる?」
サイの名前を聞いた瞬間、びくっとした。
ナルトはサイの友達なのだ。
もし、もしもあの絵を見に来てることがばれたら・・・・!
サイとの仲が悪くなるのもあるし、なにより、今せっかく仲良くなれそうだというのにナルトに男なのに恋愛感情をもっていることがばれたらどうなるか・・・!考えるだけで恐ろしい。
「・・・あ、ああ・・・」
「そっか、まぁここに来るって事は、サイの友達だってことだよな。」
うんうんと、一人納得しているナルトに対し、サスケは二つほど疑問が沸いた。
たしかにこの教室はサイが特別に許可をもらって出入りしているのだから、サイの友達だって来る事はあるかもしれない。
だが、ここはあくまでも学校で、いくら旧校舎でもう授業には使われていない教室だからといっても、物置になっているのだから、他の生徒だって出入りするのではないだろうか。
そしてもう一つの疑問。
正直、一つ目のはどうだっていいのだが、これはすごく気になる。
それは・・・
何故、ナルトはそんなこと知ってるんだろうか。
友達であるサイから聞いたというならその疑問は消えるが、それなら、
なんでこの教室にいたんだろうか。
この数週間、サスケは学校中ナルトを探し回っていた。
しかし見つからず、学校内にそんな生徒は居ない、と担任にも言われた。
なのにコイツはこの教室にいる。
年も自分と全く違わないように見えるから、卒業生ではないだろう。
ここは小さな田舎町なのだ。
中学なんてここ一軒しかないし、電車もほとんど通らない。
しかも今日は平日だ。
他の所から来るにしても、まだ学校が終わったばかりなのだからこんなところに居るはずないのだ。
それに、ナルトは白いフード付きの服にジーパンと、明らかに私服。
―何故なんだろう・・・―
聞いてみようとしたが先程の事件が頭をよぎり、やめた。
(・・・きっと小学生なんだろう。)
そう無理やり納得させて。
「サスケっ、こっち来いよ!」
見れば、ナルトが奥の、あの絵の近くで手招きしている。
急いでそばに駆け寄った。
「ほらっ、これ、サイが描いてくれたんだぜ!」
そう嬉しそうに見せられたのは、何度も見ている、あの初恋の絵。
昨日観たときより輝きを失っている気がした。
すぐ傍に、この絵よりずっと輝いた本物がいるからだろうか。
「この絵はさ、今年の夏休みにサイが描いてくれたんだってばよ。俺がすっげー頼み込んでさっ」
「・・・・そうなのか?」
「うん、アイツ、人物画は苦手なんだって言って、全然描かねーんだってばよ。ほら、ここの絵も、これ以外全部風景画しかないじゃん」
「・・・なるほどな」
そう言って、サスケは他の絵を見渡した。
ナルトが描かれている絵にしか興味が無いサスケは最初くらいしかちゃんと見てなかったが、やはりどの絵も素晴らしく上手いと思う。
・・・けれど、他の絵はみんな、どれも見ていてサイが楽しく描いていたんだろうと思うのに対し、この絵は少々雑というか・・・サイが明らかに描きたくないと思っているような感じがした。
それは、本当に苦手というだけなんだろうか・・・。
ナルトを見ると、すこし寂しげな表情で自分が描かれている絵を見つめていた。
「これってば、すっげ〜〜・・・!」
「あぁ、『夜警』か。たしか、この絵に関係ない少女に光を当てたせいだったかで、依頼主からかなり反感買った作品なんだとさ。」
「へぇ〜・・・・って、そういう捻くれたマメ知識いらねーってばよ!!」
偶然教室の奥底に眠っていた美術の教科書を発見し、それを捲りながら、そんな話をしていた。
何時の間にかもう夕方になっていた。
空にはまだ見えにくいが星がいくつか瞬いている。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうとはこのことだな、とぼんやり考えた。
「サスケ。」
ふと気がつくと、ナルトがこっちを見つめていた。
「もう遅いし、今日は帰ろうってば。」
あぁ、さっきのまま、時が止まってくれればいいのに。
玄関を出ると、外は涼しい風が吹いていてとても気持ちよかった。
ナルトとは家の方向が少し同じらしいので、二人で帰り道をゆっくり歩く。
道の周りには、まだ元気よく咲いた向日葵が風にゆられている。
自分の隣では、向日葵色の髪をなびかせながら、ナルトが何故か楽しそうに歩いていた。
見ているとこっちまで楽しくなってくる。
―やっぱり、今この状態のまま、時が止まってくれたらいいのにな。
俺はまだナルトのことを何にも知らない。
いや、さっき教室にいるときに自己紹介し合ったし、アドレスだって交換したから何も知らないわけではないのだが、それでも、趣味や特技、住んでいる所、家族の事、それに、さっき疑問に思った、『何故、教室にいたのか』ということだって、サスケは何も知らなかった。
聞いてみたくても、もしまた険悪なムードになってしまったら・・・。
それはもう懲り懲りだ。
隣にいたナルトが、さっきから下を向いて何か考えているような様子のサスケに気付いた。
「サスケ?何考えてるんだってばよ?」
「・・っ!?・・・な、なんでもねぇよっ!」
「でもサスケ、なんかすっげー悩んでる顔してるってば。なんかあった?」
俺でよければ相談のるってばよ!と、付け足すナルトを見てサスケは、もしまたさっきみたいになったら、今度こそ、ちゃんと謝ろう。と決意してさっきからの疑問を聞いてみた。
「・・・お前、なんで今日、美術室にいたんだよ?」
「・・・・!」
その瞬間、ナルトの顔が強張る。
やっぱり聞かなきゃ良かった、すぐに後悔して、今度こそ謝ろうと口を開くと・・・
「・・・絵を、観に来たんだってば。」
ナルトが先に答えた。
「・・・絵って、あの、お前の・・・?」
「うん、あの絵。」
「あの絵はさ、まぁ話せば長くなるんだけど・・・聞く?」
少し困った風に笑いながら聞いたナルトに、サスケはこっくりと頷いた。
ナルトが説明したことは、こうだった。
ナルトは、幼いころからかなり重い病気にかかっていた。
それも、この町の医者ではけして治せないような病気だ。
人にうつるものではないが、かかっている人間は、たまに意識を失って倒れてしまう事があり、すぐに安静にさせないと死を招くものらしい。
学校にも、いつ倒れて、もし最悪の事態になってしまったら、という理由で出席停止になり、授業は担任の先生から週1でプリントを渡され、それを期限までにやったり、家庭教師を雇って受けているらしい。
手術をすれば治るものらしいのだが、それも高度な技術をもっていないと成功しなく、しかもナルトの体がそれに耐えられないと判断され今までしてこなかった。
しかし今年の夏、ようやく手術できると判断され、両親と3人で喜んですぐに都会の病院に向かったのだが・・・
行く途中、交通事故に遭い、両親を亡くしてしまった。
そして当然、その後手術は行わず、今は他の県に住んでいる祖父の援助の元、今まで家族と住んでいた家で一人暮らしをしているらしい。
「―最近知ったんだけど、俺ってば、もうあんまりいられないんだって。」
サスケはあまりの残酷な、悲しい話に、ただただ耳を傾けるしかできなかった。
「俺、写真撮られるの苦手でさぁ・・いっつも逃げ回ってたから、本当に小さいころの写真しかなくってさ。
・・・・ほら、お葬式の時って、写真飾るだろ?でもまさか小さいころの写真飾ってもらうわけにもいかないしさ。だから、サイに、それ用のって、描いてもらったんだってばよ。」
まぁ、サイはすっごい嫌がったけどな!と笑顔で続けるナルト。
その笑顔は、さっきまでのとほとんど一緒のものだったが、瞳は明らかに涙の膜で潤んでいた。
※今読み直すと、設定やその他もろもろが・・・すごく痛いと気付きましたorz